『マスミットとマヤンヌ』 ::: 3 :::
by はね吉




 マッチョこびと爺さんの小屋の前で、抱き合ったまますぅすぅと眠り込んでいる二人を見つけたのは
その日のトレーニングを終えたマッチョこびと爺さんたち、でした。
そこに転がるたくさんの林檎と、マスミット姫。そして見た事もない、チンチクリンの魔女っこ。
マッチョこびと爺さんたちは、ゴクリ、と息を飲みました。

ま、マスミット姫が…こんな無防備な寝顔を見せている………!

「いかん、いかんぞ皆の衆落ち着くんじゃ!マスミット姫を…寝台に寝かせるのじゃ。
 よいか、同時だぞ、同時に皆で抱き上げるのじゃ!抜け駆けは許さん!」

一番筋骨隆々としたリーダーのマッチョこびと爺さんが、皆に号令をかけて
小屋の外に運び出した寝台のうえに、うやうやしくマスミット姫を寝かせました。

そして、色とりどりの花を摘んできては、マスミットの周りに飾り付けていきました。



  …そう、チンチクリンの魔女っこなど見向きもせず放置、です。



そうして寝台をぐるりと囲み、皆でマスミット姫を眺めておりました。
あご髭から滴り落ちるものを拭いもせずに、上気させた頬を隠しもせずに。

「いかん…皆の衆、落ち着け、落ち着くのじゃ…」

リーダー爺さんがそうして皆をいなすのにも限界に近づいた頃、
そこに一頭の白馬に跨った王子様が通りがかったのです。

「おい、お前たち。いったいどうしたんだ?」

マッチョこびと爺さんたちは、一斉にその声に振り返りました。

「おお!お久しぶりでございます、ヒジリス王子!!」

「なんと…このように美しい姫が…んん??この方は……」

通りがかった白馬の王子は、マスミットの隣の国のヒジリス王子でした。
幼少の頃はマスミット王子と何度か会ったことがあったのですが
前のお妃様が亡くなられた後からは会うことが叶わなかったのです。

「ま…マスミット王子…ぼくにはわかります、
 やはりあなたはこんなに美しく成長なさったのですね」

「こうして寝台に花と共に寝かされているということは…
 すでにあなたの美しい鼻と口に、新しい空気が通うことが無くなってしまわれたのか?
 あぁ…こうして会うことが叶ったのに、あなたの美しい瞳のなかに、
 ぼくの姿を映し見る事はできないのですか?
 なんと不幸な …!!!」

「せめて。せめてあなたの美しい唇にぼくが息を吹き込み、
 もう一度あなたの声を聞かせていただくことは出来まいか?
 ああ、許して下さい、ぼくの唇があなたの唇をしっとりと覆うことを…!」


マッチョこびと爺さんたちが、一斉に握り拳を口元にあてて顔を赤らめ
声にならない悲鳴を上げるなか、
ヒジリス王子はマスミット(姫)のあごに手をかけ、自分の唇をゆっくりと近づけていき…

あとほんの数センチ、のところで


マスミットはパチクリと目を開けたのです。

「んわぁぁぁぁ!!!」

驚いた反動で、マスミットはヒジリスの頭に頭突きをかまし、がばと起き上がりました。

マッチョこびと爺さんたちは歓声を…否、「Booooooooooooo!!!」とブーイングをあげました。



 …そう、ここまできても、チンチクリンの魔女っこは放置、でした。



ご想像のとうり、マッチョこびと爺さんたちはお互いに愛し合える嗜好の方々でした。
マスミットが転がり込んできた時、まさに『飛んで火にいる夏の虫』だったのですが

いくら美しく美味しそうでも、まだ17歳の少年を
7人で襲いかかる様な非人間的なことは出来ませんでした。
折を見て、ゆっくりまったりと教えてゆけばよいのです。
しかしそれまでは逸る気持ちを落ち着かせる為わざと女の子の格好をさせて
その気を紛らわそう、と考えついたのでした。

そしてこのヒジリス王子。
幼少の頃マスミット王子に初恋をしてからというもの
恋の対象は異性にはむかなくなっていたのです。
ヒジリス王子もたいそう美しい姿をしていたのですが、異性を愛せない悩みを
この7人のマッチョこびと爺さんに打ち明けていたのでした。
ヒジリスがマッチョこびと爺さん達にいろいろ教えられていたかどうかまでは
ここでは追求しないことに致しましょう。

「お…おれはいったい…?」

マスミット王子はあご髭からヨダレを滴らせているマッチョこびと爺さんたちと
たんこぶを隠しもしないで微笑んでいるヒジリス王子を見て呟きました。
リーダーマッチョこびと爺さんがかくかくしかじかと説明したのを聞き、
マスミットはようやく倒れる前の状況を思いだいました。

「あ…マヤンヌ!!」



 …そう、ここまできても、チンチクリンの魔女っこは放置、のままでした…








シオリンド特製強烈眠り薬を塗布した林檎をかじったマヤンヌは、
効き目抜群夢の中、でした。
マスミットはマヤンヌのかじった林檎の欠片が口の中に転がり込んではきましたが、
毒を吸い出す経験からすぐさま吐き出しており
(マッチョこびと爺さんとヒジリス王子の期待に副うことなく)
毒の影響はさほど無かったと思われました。

マスミットはくーかくーかと寝息をたてているマヤンヌを抱き上げました。
「おおっ…!!」と声をあげ、
カメラのフラッシュをバシバシ焚くマッチョこびと爺さん達をギロリと一瞥し、
自分の寝かされていた寝台にマヤンヌを運びました。

相変わらずくぅくぅ眠りこけているマヤンヌを心配そうにみつめていると、
たんこぶに冷え〇タを貼ったヒジリスが声をかけました。

「マスミット様。マッチョこびと爺さんたちから事情はお聞きしました。
 どうやらシオリンド女王は、ぼくの国に住んでいた魔女だったようです。
 ぼくも以前、城つきの魔法使いから教えを請うていたことがあったのですが
 その教室にシオリンドもいたのを思い出しました。
 同じ魔法使いから習った眠り薬なら、解毒剤の作り方もぼくは知っています」

懐から水薬を取り出し、マスミットに手渡しながら

「その相手を本当に愛している者が口移しで飲ませてやることが条件なのですが…」


マスミットはその薬を受け取り、マヤンヌに向き直りました。

「おれのせいか…。おれを連れ戻す為におまえは遠路はるばるここまで来て…
 マヤンヌ!おまえを救いたい…!
 おれのためにおまえがこうなってしまったものなら
 おれの手でどんなことをしてでも立ち直らせてやる…!
 もう一度道化師へのあの激しい情熱をよみがえらせてやる…!
 マヤンヌ…おまえの生きがい…おまえの全て…
 みんな取り戻させてやる…おれのこの手で…!
 おれにしてやれることはこれしかない……」

水薬を迷うことなく口に含み、マスミットはマヤンヌの口の中にゆっくりと注ぎ込んでゆきました。

小さな喉がコクンと動いた途端、マヤンヌの瞼が微かに動き、ゆっくりと開かれました。

正面に、美しいお姫様の顔があります。

「あなたは…?」

マスミットが被っていたカツラを脱ぎ、優しくマヤンヌに微笑みかけました。





「あなたは…あなたはむらさきの……げいのひと………!!」




マヤンヌがそのひと言を放ったとたん、

マッチョこびと爺さんとヒジリスは心の中で驚愕しました。

『やっぱり、そうだったんじゃん〜〜〜〜〜〜〜!!!!』





背中にただならぬ悪寒を感じたマスミットは、
マッチョこびと爺さんたちとヒジリス王子の眼の色が変わったのを敏感に感じ取り、
即座に否定しました。

「ちがうちがう、おれはノンケだ!フツーだ!女の子が好きなんだ〜〜!!」


そんなこんなで、マヤンヌは今までの経緯をマスミットとマッチョこびと爺さん達から聞き、
知らなかったこととはいえ、毒林檎を食べさせようとしたことを謝り、
助けてくれたことをマスミットとヒジリスに感謝しました。


「ところでマスミット王子、
 シオリンドは悪だくみをしてぼくの国から追放された悪い魔女なのです。
 城つきの魔法使いが魔術を封印してしまうように使いをだしていたところなのです。
 どうかその仕事をぼくにさせてはいただけませんか?」

「それはありがたい。こうして城から逃げ出してきたものの、
 やはり国のことは気になっていたんだ。
 どうかシオリンドを退治する力になってくれたまえ」

…ということで話を端折ってしまいますが、
マスミットはマヤンヌを伴ってヒジリスと城に帰り、
シオリンドから魔術を取り上げ封印し、ついでに池のカエルに姿を変えてしまいました。

ヒジリスはマスミットへの恋は叶いませんでしたが変わらぬ友情を確認し、
これからは協定を結ぶなど、今まで以上の国交を約束して帰っていきました。

マッチョこびと爺さん達は、マスミットが城に帰ることを残念に思いましたが、
後日マスミットからダンベルセットとプロティン5年分が送られてきてたいそう喜びましたとさ。




さて、その何年か後のこと。

マスミット王のもとに、小さな王女がとことこと走り寄っていきました。

「おとうしゃま、わたくち、もうこんなこともれきるようになりまちた」
「どうじょ、ごら〜んくだちゃいましぇ〜」

王女は小ぶりの林檎を五つ投げ上げ、くるくると上手にまわします。

マスミット王はパチパチと盛大に拍手をしました。

「すごいな、アユーミ姫は!こんなことがもうできるなんて、天才だ!」


そしてアユーミ姫の後ろでにこやかに微笑んでいる后に、優しく語り掛けました。


「きみは、自分で芸をするより、教えるほうに才能があったようだね。
 もっとも、アユーミ姫の覚えが良いのと運動神経が長けているのは
 わたしに似ているから、なんだろうが」



そう、マヤンヌは城にマスミットを連れ帰ったということで
一人前の道化師として認定…されることなく、





どこでどうなったのか誰も知らないうちに
マスミット王のお后になってしまったのでした、とさ。




         おしまい。








  あとがき


おふざけ満載の白雪真澄、いかがでしたでしょうか…?
水薬のあたりは、まんま真澄セリフを使わせていただいております。
ついでに、フラッシュをバチバチするのをギロリと睨んだ真澄さん…も、
ご存知あのシーン、ですよ。ふふふふ♪

カエルに姿を変えてしまったシオリンド…どうか、どなたか救い出してあげてください!!


お楽しみいただけましたら、幸いです♪



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