『マスミットとマヤンヌ』 ::: 2 :::
by はね吉




明けても暗い森の中を、マスミットは駆け抜けて行きました。
マヤンヌと別れるのは身を切るように寂しい、
でもこのまま城にいるといつシオリンドに犯されてしまうかわからない・・・それだけは絶対に嫌だ。
若いマスミットの強靱な脚は、日の暮れる頃には国境の深い森にまでたどり着いていました。
そこでマスミットは灯りのともる小さな作りの小屋を見つけて、
何はともあれそこに厄介にになろう、と思いました。

その小屋から出てきたのは、小さな身体ながらムキムキの爺さん達が7人。
みんな浅黒く日焼けし、筋肉はツヤツヤ光り、白い歯をキラーン、と見せて笑います。
マスミットがかくかくしかじか、と事情を説明すると爺さん達はコソコソと相談し、
面倒を見てやってもいいが、条件がある、と言い出しました。

7人のこびとが匿う者は可愛いお姫様と相場が決まっている、
その美形を最大限に生かし、なおかつ女王の追っ手から身を隠すにはもってこいなのだから
どうか可愛い姫の姿で過ごしておくれ、と。
マスミットは渋々了解し、
こびと爺さん達にされるままにかわいらしく飾りたてられていきましたとさ。
ただ、立ち居振る舞いや言葉遣いまではすぐになおるものでもありません。
しかも嫌々女装をさせられているので少しばかりつっけんどんな雰囲気さえただよっています。
それをこびと爺さん達は
「うほほほ、ツンデレっぽくて(ツンのみだが)萌えるのぉ〜〜〜〜」
とキャイキャイよろこぶのでありましたとさ。







さて、片やシオリンド女王。
いなくなって数日、とうとうマスミットの行方を鏡に占うのでありました。
「鏡よ鏡。マスミット王子がどこにいるのか、映し出すのじゃ」

そうすると、国境の深い森にいる7人のマッチョこびと爺さんの小屋が映し出され、
それがきゅーーーっと小さくなり、森全体、国全体の尺度にまでひろがり
お城からマッチョこびと爺さんの小屋まで何百キロ、という
まるでグ○グルアースのようになりました。

シオリンドの魔法の鏡は現代でのタブレット端末のようでした。
ただ、マスミットが女装をしているとか、
マヤンヌと愛を交わし合っていたとかの一切の情報は求めない限り提供しないのでした。
好都合ですね。
(と、いうよりシオリンドの検索呪文が足らないのですね。
 ウィキならおよそマヤンヌは火炙りの刑になってしまうでしょう)


シオリンドはマスミットを城に連れ帰る為に、毒林檎を作りました。
紫のバラを千個用意させ、裁ちバサミでドスドスドスドス、と突き刺し、
バラから滲み出るエキスを搾り取ります。
そうして煮詰めて蘭の花の絞り汁を混ぜて出来上がり。
極上の眠り薬です。
それを林檎に塗りたくり乾燥させると、見事な毒林檎(眠り薬)の完成です。

しかしシオリンド、アッチの体力は男泣かせでありながら
運動したり歩いたりの体力はなかったのでした。
都合よく貧血をおこしてしまうのです。
そして数百キロ離れたマッチョこびと爺さんの小屋までひとっとび、
というような魔法までは持ち合わせていませんでした。

そこで身軽な道化師たちに事情をはなし、
林檎売りに化けてマスミットに林檎を食べさせ眠らせて、城に連れ帰ってくるよう命じました。

「それならマヤンヌが適任だ。
 鈍くさいし芸はいまいちだが脚は速いし力持ち、
 役者のように芝居も得意だ。
 どうだ、マヤンヌ、これが出来たらおまえも一人前の道化に昇格だ。やってみるか!」

「あいきた!おいきた!おいらにとっちゃ地球1周なんて朝飯前!」
元気に芝居のセリフを口走り、マヤンヌは張り切ります。

「ではこれがマッチョこびと爺さんの小屋までの地図と
 林檎売りの衣装と眠り薬の林檎じゃ。
 毒林檎はただの1個だけ、じゃから他のものと間違えないようにするのじゃぞ」

「わかりました!きっとマスミット王子様をお城にお連れいたします!!」
そう言ってマヤンヌは風のように走ってゆきました。

ただ、そこにいるみんなは知らなかったのです。
マヤンヌがマスミット王子の顔を知らない、ということも、
マヤンヌがマスミット王子と知らずにお互いに愛しあっているということも・・・・・・






マヤンヌはおよそ2日かかって、マッチョこびと爺さんの小屋にたどり着きました。
マヤンヌは曲がった付け鼻をつけ、
真っ黒い頭巾付きのマントを身に纏って篭に林檎を形よく盛りなおし
こびと爺さんの小屋の扉を叩きました。

「だれだ」と声がして、扉ではなく小さな窓がわずかに開きました。

「あたしは貧しい林檎売りでございます。どうかお兄さん、林檎を買ってくださいな」

「わたしはお兄さんではない」

「えっ、でもそのお声、どう聞いても若い男のひと、お兄さんだわ」

「わたしはお姉さん、だ」

「ウソよ」

「ウソではない、ほらこのとおり」

マスミット姫は窓を全開にして、身を乗り出しました。
そこにはヘンな付け鼻をした小さい魔女風の林檎売り。
どこかで見たような記憶があるものの、なんだか可笑しくてからかってやろうか、と思いました。

マヤンヌは確かに美しいお姫様が窓から身を乗り出したのを見て驚きました。
どこかで見たような記憶があるものの、あら?マスミット様って女の子だったかしら?
一度も会ったことがないのだから思い違いかもしれない…
このお姫様がきっとマスミット様だわ、と決めて、マヤンヌは林檎食べさせ大作戦を始めました。

「あぁこれは失礼お嬢さん、林檎をひとついかがですか」

「林檎なんていらない。肉汁の滴るようなステーキが食べたい。
 なんたってここの連中、プロティンとか鶏のささ身とか卵の白身とか、
 良質の蛋白質にしか興味がないんだ」

「……じゃ、じゃぁ、林檎なんて果汁たっぷり、食物繊維、こんないい食べ物ないですよ」

「あぁ。それだけにいつもふんだんに用意されている。歯にもいいそうだし。
 だから食い飽きた。」

どうしてシオリンド女王様、林檎にしたのかしら?毒ステーキなら簡単だったのに。

「これは特別な林檎なのでございますよ。
 一口食べればその美味しさ、夢心地でございます」

「じゃあお前、一口食べてごらん」

「いえ、売り物に手をつけることは出来ませんよ」

「そんならいらない。お前とひとつの林檎を分けて食べようというなら考えてもみないが」

マヤンヌは焦りました。どうしよう。なんとかしてこの毒林檎たべさせなければ…
食べたフリでもしてみるか…?

「わ…わかりました。じゃぁ、半分こ、ですね」

マヤンヌは間違えないように真っ赤でつやつやした毒林檎を取り出しました。


イラスト by まいこ ※クリックで拡大します


「おれ…いや、わたしはその隣の林檎のほうがいいんだが」

「いえっ、こっちのほうが真っ赤でよく熟れてるんです!」

「いや、わたしはちょっと爽やかな酸味のある林檎のほうが好きだ」

「だめっ、絶対コッチなのっ!」

「そんな毒どくしい赤はイヤだ!」

「我儘言うんじゃありません!」

「どっちが!!」

「ぅもううううううっ!!!」

バキャッッッ!

マヤンヌの手の中で、毒林檎が真っ二つに割れていました。


「……ちゃんと わ り ま し た。 た べ な さ い 。」

「……は。はい…」




素直に林檎の片割れを受け取ったマスミットを見て、
マヤンヌは安堵のため息をつきました。
これでマスミットが眠りについたら、背負ってお城に帰るのだ。

もぐもぐしているマスミットはいつまでたってもぱたん、とは倒れません。
「どうしたんだ?お前も食べないか。うまいぞ」

あれ?あれ?どうして?違う林檎割っちゃってたかしら?
マヤンヌは不思議に思って片割れを齧りました。
そして見たのです…

「か…皮剥いて…食べて…る…!…!…!   」


マヤンヌはぱたん、と倒れました。
その途端、つけ鼻がとれてマヤンヌの本当の姿を見せる事になったのです。

「お、お前はマヤンヌ!! いかん、林檎が…?」

マスミットは慌てて外に出てきて、マヤンヌを抱き上げました。
マヤンヌの口の中にある林檎の欠片を吸い出そうと口づけましたら
それがたまたまマスミットの口の中に転がりこみました。

口の中に、強烈な眠り薬が溶け出してきます…

そしてマスミットもマヤンヌを抱きしめたまま、同じように眠りに落ちたのでした…



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