『灰かぶりマヤと七人のこびとたち』 ::: 4 ::: by ぷりん ![]() 数時間後、レイは仲間たちとともに薪や食べ物を集めてようやく小屋へ戻ってきました。 「ふう〜、今日は美味しい果物がいっぱい採れたね!マヤ様もきっと喜ぶよ!」 レイはそう言いながらドアを開けました。 そのとき、レイたちの目に飛び込んできたのは、なんと床に突っ伏しているマヤの姿でした! 「マヤ様!?」 レイたちは手にしていた篭を投げ出してマヤに駆け寄りました。 しかし、マヤの顔は青白く、微動だにしません。 レイはマヤの口元に耳を近づけました。 「!!!」 「どうしたの、レイ?」 「大変だ!マヤ様が息をしていないッ!!!」 「なんだって!?」 こびとたちはマヤの身体を揺すりましたが、それでもマヤは全く動きません。 レイたちはマヤを仰向けにして、もう一度口元や胸元に耳を当ててみましたが、息をする気配もなければ、心臓の音も聞こえませんでした。 「いったいどうして……?!」 こびとたちが呆然としていると、レイがマヤの側に食べかけのリンゴが落ちているのに気付きました。 「きっと、このせいだ……このリンゴに、きっと毒が……!」 レイは呟くと、すぐにそのリンゴをゴミ箱に捨てました。 「あれだけドアを開けちゃいけないって、言ったのに……!可哀想なマヤ様!」 レイはマヤの瞼をそっと閉じて泣き始めました。 それにつられるように、ほかのこびとたちも声をあげて泣き始めました。 「マヤ様、マヤ様あ!」 魔法を自由自在に操ることができるこびとたちでしたが、こればかりはどうにもなりません。 七人がわんわん大きな声で泣いているとき、レイはふっと人の気配を感じ、ドアの方を振り向きました。 マヤが倒れていることに驚いて、すっかり閉めるのを忘れていた入り口のドアには、見たことのない長身の男性ふたりが立っていました。 レイが慌てて涙を拭ってドアに駆け寄ると、ふたりの男性が交わしていた会話が耳に飛び込んできました。 「ここにも若い女性が住んでいるのを見かけました。ここで靴が合わなければ、もう少し広い範囲まで探しに行きましょう。」 「うむ。」 入り口のふたりの男性は、駆け寄ってきたレイがとても小さいことに驚いたふうもなく、レイに言いました。 「失礼、ドアが開いていたものだから、つい。」 男はまずそう詫びると、 「私はハヤミ王国のヒジリと申します。 こちらは、ハヤミ王国の王子、マスミ王子であらせられます。」 「え……?!どうして、王子様が……?!」 マヤがレイたちと共同生活を送るようになってから、レイは舞踏会でのことをマヤから聞いていたのでした。 マヤがマスミ王子にダンスを申し込まれたこと、ダンスが夢のように楽しかったこと、そしてこのまま魔法が解けなければ良いのにと願ったこと…… マヤがマスミ王子に恋をしたことを知っていたレイは、マスミ王子の着物の裾を引っ張るようにして言いました。 「王子様!マヤ様が……マヤ様が!!」 「なに、マヤ……?!マヤがどうかしたというのか?!」 レイを見下ろしていたマスミ王子は、ただならぬ気配を感じ取り、胸騒ぎを覚えました。 そして、レイに案内されるまま家の中間で入っていくと、なんとそこには生気のないマヤが横たわっていたのです! マヤを囲んで泣き叫ぶこびとたちを見て、一瞬にしてすべてを悟ったマスミ王子は、マヤの側にひざまずいて身体を揺すりました。 「マヤ!マヤ!!!」 それでもやはり微動だにしないマヤの身体を見て、こびとたちの泣き声はさらに大きくなりました。 「いったいどうしてこんなことに……!きみを……きみを、ようやく見つけ出せたというのに!!! ああ、もう少し早くここに来ることができていたら……!」 マスミ王子の目から涙が溢れました。 しばらくマヤの身体にすがりついて嗚咽していた王子は、やがて彼女の青白い頬と黒髪を愛おしそうに撫で、マヤの唇に自らの唇をそっと重ねました。 唇はひんやりと冷たく、その感触にさすがのマスミ王子もびくりと身体を震わせました。 そして、マスミ王子があれほど恋い焦がれ、探し求め続けたマヤの顔をずっと見つめていたときのことです。 マスミ王子は、マヤの瞼がぴくりと動いたような感じがしました。 まさかそんなはずはないと、王子が目を凝らしていると、マヤの頬にだんだんと紅みが差してきたのです! その変化を、レイたちも感じ取っていました。 「マヤ!?」 「マヤ様!?」 マスミ王子もこびとたちも、いっせいにマヤの身体を揺すって声をかけました。 するとどうでしょう、マヤがゆっくりと、深い眠りから目を覚ますように瞼を開けたのです! 「みんな……どうしたの?」 マヤは、心配そうに覗き込むこびとたちをきょとんとした顔で見つめ、すぐにマスミ王子の姿を視界に捉えると、見る見るうちにその大きな目をさらに大きく広げて起き上がりました。 「王子様!?どうして、どうしてここに!?」 すると、次の瞬間、マスミ王子はマヤを強く抱きしめました。 「マヤ!!!ああ、良かった!本当に良かった!」 抱き合うふたりを、こびとたちの歓喜の声が包みました。 しばらくしてようやくその場が落ち着くと、マヤはレイから今までのいきさつを聞いて驚きました。 「そうだったの…… 確かに、あたしはみんなの言いつけを破ってこのドアを開けてしまったの。 それで、お婆さんから買ったりんごを食べ始めたんだけれど、暫くしたら気分が悪くなって……そのあとのことは、まったく覚えていないわ…… 心配をかけて、本当にごめんなさい。」 マヤはこびとたちに謝りました。 「でも、」 マヤは頬を赤らめて隣のマスミ王子を見上げて言いました。 「どういうわけだか、目覚める直前に貴方が私にしてくれたことは……はっきりと覚えているの。 なんだかとても……甘くて、切なくて……とても素晴らしかったわ。」 「そうか……なんなら、ここでもう一度。」 マスミ王子はそう言うと、再びマヤに軽く口づけました。 「うわっ!」 レイたちが大げさに両手で顔を覆ってみせ、辺りには笑いが広がりました。 すると、ヒジリがコホンと咳払いをして、ガラスの靴を取り出しました。 「マスミ様、どうぞこの靴をマヤ様に。」 王子はヒジリから靴を受け取ると、片側ずつ、恭しくマヤの足へ履かせました。 「やはり、ぴったりですね。」 ヒジリはマスミ王子に微笑んでみせました。 「ああ、そうだな。」 「ならば、決まりでございますね、マスミ様。」 王子はヒジリの言葉に頷くと、マヤの足元に跪き、彼女の手を取って言いました。 「マヤ、どうかぼくと結婚して下さい。」 「え……?」 マヤは、あまりにも突然の申し出に、耳を疑いました。 マスミ王子は、マヤの目を見つめ、ゆっくりと繰り返しました。 「どうか、このぼくの妃になってほしい。」 みるみるうちにマヤの目から涙が溢れだしました。 「王子様!」 王子はマヤの返事を待っています。 「でも……でも!あたしなんか……タカミヤ王国の使用人にすぎません! そんなあたしなんか……!」 すると、レイがすかさず言葉を挟みました。 「マヤ様は使用人なんかじゃないよ!本当は、キタジマ王国の王女様なんだ!」 「レイ!何を言い出すの!」 マヤは慌ててレイを制止しました。 すると、マスミ王子はにっこりと笑って言いました。 「ぼくは、きみがどこの誰であろうと構わなかった。 ぼくは、あの舞踏会の夜、マヤという女性を愛してしまったんだ。 ヒジリのおかげで、つい最近、きみが本当の王女だということを知ったがね。」 その言葉を聞いた途端、マヤは王子に抱きつきました! 「返事は?」 王子がマヤに尋ねます。 「もちろん、もちろん貴方のもとへ参ります!」 マヤはマスミ王子に抱きついたまま笑顔で答えました。 *** 一ヶ月後、マスミ王子とマヤの結婚式は、盛大に執り行われました。 マヤを殺そうとしたことが明るみになったタカミヤの小賢しい女たちは島流しの刑になり、国を追放されました。 それを機に、一度は町中に下っていたマヤの従姉妹であるアユミが城に戻って女王として統治することになり、キタジマ王国は復活しました。 ふたりの結婚式にはハヤミ王国とキタジマ王国双方から大勢の人たちがお祝いにかけつけました。 マスミとマヤの目の前で繰り広げられる余興を楽しみながら、マヤは隣の王子に耳打ちしました。 「あたし、どうしても聞きたいことがあったの。」 「なんだ?」 「あの時……舞踏会で、どうして貴方はあたしと踊ってほしいと言ったの?」 「それは、おれがきみと踊りたかったからだ。」 マスミの返事に、マヤはぷっと笑って言いました。 「そういうことじゃなくって! どうして貴方はあたしの名前を知っていて、あたしのところへ迷わずにやってきたの?」 「ああ、それは……」 マスミは、ゆっくりと話し始めました。 「ぼくは、そもそも女性とか、結婚とかには興味がなかった。 だが、親父は結婚しろ、結婚しろと、ぼくの顔を見る度にうるさい。 あの舞踏会だって、ぼくの結婚相手を見つけるために親父が勝手に企画したものだ。」 「それは聞いていたわ。」 「城に集まってくる女たちなんて、玉の輿を夢見ているような輩ばかりに決まっている。」 「……そうかしら?」 「ああ、そうだとも。とにかくだ、ぼくはせめてそんな輩の中から、自分なりに自分が求めるような女性を探そうとした。」 「?」 「きみは、城へ上がる階段のたもとに物乞いがいたのを覚えているかい?」 もちろん、マヤは忘れてはいませんでした。 舞踏会が始まった後も、食べ物にありつけていたら良いのにと気になっていたのですから。 「ええ。」 マヤはそう返事をしました。 「あれは……ぼくだったんだ。」 「えええ!?」 マヤは思わず大きな声をあげそうになり、口を両手で覆いました。 「あ……あれが、貴方だったというの!?」 「ああ、そうだ。」 マスミはマヤをじっと見つめた。 「案の定、女たちはみすぼらしい格好のぼくなんかには全く興味はなかった。それは、当たり前といえば当たり前だろう。 女たちの目的は、王子としてのぼくに如何に取り入るかなのだから。 綺麗に着飾った女たちが汚い言葉を吐いたりするのには、心底うんざりしたよ。 おかげで女たちの真の姿を見極めることができた。」 マヤは黙ってマスミの言葉に耳を傾けていました。 「そんな中でたったひとり、きみだけがぼくに声をかけてくれた。」 「あ……!」 「そして、食べ物はないが、これで元気を出してくれ、とぼくのまえで面白い一人芝居をやってくれたんだ。」 「……」 「ぼくは、きみがなんて心の綺麗な女性だろうと思った。 そんな女性に今まで出会ったことなんてなかったから、とても新鮮だったよ。 ぼくはもっときみを知りたいと思った。 ……いや、正直に言おう、ぼくはあのときすでに、結婚相手としてきみ以外の女性など考えられなくなっていた。 だからこそあのとき、ぼくはきみの名前を尋ねたんだ。」 マスミはそう言ってマヤを熱っぽい眼差しで見つめました。 マヤの心臓は、これだけでもうどうにかなってしまいそうでした。 そんなマヤの頬と唇を、王子の指がゆっくりとなぞります。 「それがどうだ、一緒に踊ってみたらきみのダンスは素晴らしかった。 きみはこんなにも美しくて、おしとやかで、素養もあって、他の誰よりも心優しくて……こんなに完璧な女性がこの世にいたのだと、心から感激したよ。 きみと踊るうちに、ぼくはもうすっかりきみの虜になってしまっていた。 それなのに、ようやくふたりきりになれたと思ったら、きみはぼくの腕をすり抜けてどこかへ帰ってしまった。 しかも、ぼくの目の前で、忽然と消えてしまった。 あのときのぼくの気持ちが、きみに分かるかい?」 マスミはそう言うと、マヤを抱き寄せました。 「ごめんなさい……あの、と、きは……魔法が……とけて……しまいそう……だった、から……」 マヤの喉はからからに乾いて、声を出すのがやっとでした。 「もう、いいんだ。きみを困らせるのはやめよう。 きみはいま、こうしてぼくの腕の中にいる。ぼくは、世界一幸せな男だ。」 「マスミ様……」 マヤはうっとりとマスミを見あげました。 「マヤ、今夜、ようやくきみがぼくのものになるかと思うと……」 マスミの声も嗄れていました。 コホン。 ふたりの背後で、ヒジリが小さく咳払いをしました。 「ヒジリ!いつの間に?!」 「ついさきほどから、ここに居りましたが?」 飛び上がらんばかりに驚いてあたふたするふたりを面白そうに眺め、ヒジリはさらりと言いました。 「マスミ様、もうすぐおふたりのダンスのお時間です。」 「ああ、分かった。」 マスミはそう言うと、真顔に戻ってマヤに言いました。 「ところで、ぼくからひとつお願いがあるんだが。」 「はい?」 マヤは、なにごとかと不思議そうに首を傾げました。 「あのときに思ったんだが、きみの芝居は、とにかく素晴らしい。 この国でも、ときどき恵まれないひとたちのためのチャリティーとして、芝居をやってもらえないだろうか?」 すると、マヤの顔がぱあっと明るくなりました。 「嬉しいわ!そんな風に言ってもらえるなんて! あたし、お芝居が大好きだもの!」 マヤはそう言って目を輝かせました。 ふたりの会話が終わったとき、ちょうど音楽が流れ始めました。 その曲は、マスミ王子とマヤ妃が初めて手を取り合って踊ったあのときと同じ曲でした。 マスミはマヤの手を取り、立ち上がりました。 ふたりが踊り始めると、辺りから拍手と歓声が沸き起こりました。 「マスミ王子、万歳!」 「マヤ妃、万歳!」 そのうちに招かれた客たちもふたり一組になって踊りだし、マスミとマヤの結婚を祝う宴はその日夜遅くまでおおいに盛り上がったのでした。 そして十ヶ月後、ふたりの間には可愛らしい男女の双子が生まれました。 双子はアキラとアオイと名付けられ、一家は幸せな生活を送り、ハヤミ王国はますます栄えていったのでありました。 めでたし、めでたし。 完 ![]() 後書き:私がこの企画のことを知ったのは、チャットに参加できなかった私に、まいこさまから後日連絡を頂いたときだったと思います。 面白そうな企画だと思い、何も考えることなく(笑)、食い付きました! 食い付いてから、さて、元ネタを何にしよう?と考え始めたのですが、私の頭の中はいつも『あんま〜いマスマヤ』なので、やっぱりシンデレラがいいなあと思ったんです。 でも、シンデレラだけじゃなくて、白雪姫とごっちゃにしたらもっと楽しいかも!なんて考え初めて、妄想を膨らませ、二ヶ月ほど熟成させていました。 で、執筆に取りかかったのが、拙宅で公開する長編を書き終わった後でしたが、結局書き始めたら、面白すぎて筆が進む、進む!(笑) なんて素敵な企画を考えて下さったのかしら、と感謝しながら、暇さえあればキーボードをカタカタやっておりました。 ホント、とっても楽しくて幸せな時間でした。 実際の速水さんは、こんなにストレートに、素直に愛情表現をするまでにものすごい時間がかかりそうですが、まあ、そこは私の頭が、都合の良いように変換してしまいましたv ほんっと私の頭って、便利(笑)! まあ、そんなこんなでゲロ甘妄想でいっぱいの相変わらずな私ですが、こんな私の妄想に付き合って下さった皆様方に感謝です。 (最後の最後で、拙宅のオリジナルキャラがちょこっと出てきちゃいました、すみません!) この素敵な企画が、大いに盛り上がりますように! そして、最後になりましたが、まいこさま、この度は素敵な企画にお声かけ下さり、ありがとうございました! 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