『もう、何も考えられない。』 by ライラ様  ■イメージ画



カーテンの隙間から痛い程の朝日を感じて、あたしは目を覚ました。
身体中がぐったり重い……久々のオフ、初日の今日。
思いっきり眠り倒すつもりだったのに、身体が早朝の感覚を訴えている。
長年の規則正しい生活のお蔭。
ほら――視線の先の時計の針は、5時45分。
まだまだたっぷり眠れるのに……目はすっかり冴えてしまった。
だってそう、隣にあるはずのその姿がないから。
そっと掌を伸ばした先のシーツの上は既に冷たい。
きっと眠ったままのあたしを置いて出かけたんだろう――
平日に不規則な休みをとる自由業のあたしと、平日も休日もなく働き尽くめの仕事の鬼のあの人。
すれ違う日々の間にほんの僅か触れ合えるひと時――
昨夜のようなひと時の思い出だけを抱きしめて、また出会う日を切なく待ち続けている、なんて。

(……何だか、まだカタオモイ中みたいだなあ)

ぼんやりとした頭でそんな事を考えながら、ゆっくりと起き上がった。

いつの間にかパジャマを羽織っている自分の姿に首を傾げて――それから昨夜の記憶がハッキリと蘇り、馬鹿みたいに赤くなる。そう、身体が重いのは何も仕事の疲れからだけではない。稽古で鍛えたこの身体、あのパックを演じたことだってあるんだから、細いの小さいのといってもちょっとやそっとでは倒れたりしない自信がある。だけど。
有り得ない角度で曲げられた、有り得ない方向に開かれた、有り得ない頻度で動かされた――
普段は意識することもないような身体中の節々が、軋む、重い、痛い。
それなのに――それが泣きたく成程、嬉しいなんて。
彼はいなくなってしまったけれど。
身体がまだその存在を覚えているのが、嬉しいのだ、あたしは。
そっとパジャマの襟から中を覗き込んでみる。
淡い朝日に浮かび上がる、ぼんやりと白い肌。
緩やかな起伏の所々に、彼が刻み付けた紅い跡を認めて、自然と頬が熱くなる。
誰も見ていないのをいいことに――彼すら見ていないことをいいことに。
そっと上着の縁から両手を忍ばせる。
冷たい空気にさらされた掌が、温かなお腹の上をするりと滑る。
そのまま、彼の手を想像しながら上へと辿ってゆく。
あの大きな手が、昨夜はあたしの腰を包み込んで、胸を潰すように回して――摘み上げたり、捻ったり、捏ねたり――本当に、何か別の形に作り変えられるんじゃないかと思うくらい、どこもかしこも隈なく触られ、掴まれ、弄られて。

――何も考えられない、彼のためだけの、ただのひとつの肉になった。

(……うわっ、何してんの、あたしってば)

彼の事を思い出しながら自分に触っていたら、いつの間にかヘンな感じになってきたので。
胸がドキドキして、お腹の下がキュンキュン疼き出したりして、指が変にいやらしく動くから。
慌てて手を引き抜いた――こんなコト、したのはこれまでだって本当に数える程もなくって……
まして彼とこういう関係を築くようになってからは一度だってしたことがない。
そんなコト、こっそりしてるなんてバレたら――
恥かしいなんてもんじゃない、きっと火を噴いて倒れる。
暫く世界から消えてしまいたいと思う、と思う。
俺だけじゃ満足できないとは、最低のチビちゃんだな――とか何とか言って鼻で嗤われそうだ。
それだけは絶対に御免こうむる。

あたしは深く深く溜息をつくと、今頃襲ってきた寒気に肩を竦めた。
そういえば季節はもう11月。
そろそろ、この薄手のコットンのパジャマも厚手のものに変える必要があるかもしれない。
ベッドサイドに腰を下ろすと、ひんやりとしたフローリングの床の冷たさに思わず足を引っ込めてしまった。
慌てて周囲を見渡す――手の届くところに衣装ダンスがあるのがありがたい、あたしの部屋。
これがあの人の住む馬鹿に広い部屋だと、そうはいかない。
以前、2,3回訪れた都心のど真ん中に聳える超高級マンションの一室ときたら、クローゼットひとつに移動するのも一苦労で、彼が気障ったらしくバスローブを愛用している理由が少しばかりわかったような気がした。
面倒なのだ、いちいち着替えるのが。

(でもここは狭いから――ホラ、便利)

誰にともなく呟くと、手を延ばした先の引き出しから厚手の紫色の靴下を取り出した。
ふと、パジャマの下に新しい下着をつけている事にも気づいて、これ以上ないくらい――昨夜あれだけの事を繰り広げておきながら何だが――赤くなり、苛立つくらい、恥かしくなった。

(なっ、な、何――あたしが寝てる間に……はっ、履かせてくれたの!?)

余計なコトしないでよ――!っと、今はいない相手に絶叫しそうになる。
恥かしい、恥かしすぎる。
だって……あの後、二人フラフラになりながら一応シャワーを済ませてベッドに倒れたのが確か深夜二時過ぎ。
自分で着替えた覚えはない――ということは、これは朝、彼が着せてくれたものなのだろう。
パジャマだってそうに違いない。意識のない自分が彼の腕の中で成すがままの姿を想像し、身悶えする程恥ずかしくなった――どこもかしこも彼に委ねてみせることができるというのに、未だにそんな些細な事で絶句する程、その系統の神経は至って繊細に出来ているのだ。

――と、その時。

「おい、何を一人で百面相してるんだ」

ふいにドアの隙間から飛び込んできた声に、本気で竦み上がった。

「げっ――わ!は、速水さん!?」
「げっ……て、何だ未だにゲジゲジ扱いか俺は」

上半身裸の速水さんが、朝日をバックにキラキラとそれは完璧な立ち姿で――眉をしかめていた。

「だ、だ、だってもう出かけたのかと――ビックリした!気配なさすぎですよっ」
「君がボンヤリしてるのが悪い。勝手にシャワー使わせてもらったぞ」
「あ、ハイ。えっと、もう出ますか?」
「ああ、そのつもりだったが――」

左手首に巻きかけていた腕時計にちらりと視線をやり、それからふと顔を上げると、何とも爽やかな笑顔でさらりと言った。

「君が一人でしかけてるのを見たら遅刻ギリギリでもいいような気がしてきた。
だから――ホラ、遠慮なく続きをどうぞ」
「なっ――!?」

叫ぶ間も与えず、立ち上がりかけていた身体が再びベッドに押し倒される。
触れられた手先が熱いのは、きっとシャワーのせいなのだろう。
僅かに触れた髪の毛も湿っぽくて、温かくて――熱を帯びて細められる眼も、思惑じみた微笑を浮かべる唇も――
男の人の癖に、ゾクゾクする程色っぽかった。

「何で途中でやめたんだ――?昨日の事を思い出しながら……してただろ?」
「何バカなこと言ってるんですか!じ、時間が――」
「そう、時間がない。だから早くしてみせろ――俺が出社した後も一人でこうやってます、とわかる様に」
「へっ、変なコト――きゃあっ」

暴れる手足を何なく抑え込まれ、緩いボタンが次々に弾かれる。
筋肉質の肩の筋がやけに生々しい――薄暗い、淡い光の下で見るのとは違う、圧倒的な色と艶。そして――

「あっ……」

眩しい朝日の下に――一点の曇りもなく、晒されてしまうあたしの身体。
首筋に、肩に、胸の真ん中に――点々と散る花びらのような跡を、付けた本人にまじまじと観察される、とてつもない羞恥心。

「う……お願い――明るすぎて、恥かしい……から、み、見ないで」
「ムリだね――こんなに綺麗、なのに……マヤ――」

そっと、あの掌が触れる。
いや、触れるか触れないかの微妙な間隔で、そっとあたしのお腹の上を――胸の真ん中から首筋を――そして再び胸の上を――時折、ちょん、と皮膚が擦れるような瞬間が堪らないほどもどかしくて、あたしは目を瞑ったままで無意識に首を振った。

「ほらマヤ……時間がないぞ――見ててやるから、一人でするんだ、やり方はわかってるだろ?」

子供を宥めるような、甘い声。
でも言ってることは全然おかしい、マトモじゃない。
そんな恥ずかしいコト、す、好きな人の前だって、出来る訳……
と、抗議しようとふと目を開けたら。

(――なんて眼で、見てるんだろう……)

興奮とも少し違う、切ないような気分に、あたしは胸をきゅんと詰まらせた。
それくらい、あの速水さんが――速水さんなのに、柔らかな優しい眼で、まるで大事な宝物を抱きしめている少年みたいな顔で微笑んでいたのだ。
そして、その瞳の中には――あたしがいた、確かに。
恥かしい程全身を火照らせて、素直に委ねることを拒みながらも――手を延ばさずにはいられない、ワガママな女の子の全てを包み込む――その姿に、あたしはぐっとわきおこる愛しさを抑えることができなかった。
だから――震えながらも、一生懸命、言った。

「わ、笑わないで――ね?」
「何を笑う」
「へ、変だって、変な恰好だし、きっと――」
「マヤ――セックスに変も何もない……お願いだ、見せてくれ、君の全部」

胸の前で交差したあたしの腕をそっと引き剥がし。
速水さんはゆっくりとその手を返して、あたしの胸の上に重ねた。
それから私の腰の横に両膝をつく――上半身は裸だったけれど、着替えかけていたのか下は昨夜着ていたスーツのスラックス姿で、ベルトはつけていなかった。
硬い手首があたしの手首を掴んでするりと下まで滑らせる――
そのまま覆いかぶさるような姿勢で、そっと額にキスされた。
湿った髪の毛から落ちた滴が、あたしの目尻を流れていく。
ぎゅっと彼の体重を受け入れながら、あたしは恐る恐る掌を動かす。
手首の圧迫が解けて、自由に動くことを命じられる。
命じられるがまま――あたしは再び、あたしの身体の上を探り始めた……
彼が見つけてくれた、自分でも知ることのなかったその感覚を、不器用に拾い集め始めたのだ。

「速水さん――あったかくて……きもちいい」

押し付けられた熱い肌と、あたしの肌。
その間で手を動かしながら、あたしは思わず呟いた。
ふっ、と溜息のような微笑を漏らしながら、薄い唇がこめかみに触れる感触がする。
右の掌がそっと髪を撫で、長い指が耳の裏を通り過ぎてゆく。
時間がないはずなのに――ゆったりとした細やかなその仕草に、あたしの胸は再び潰れそうに呻く――もう、普段意地悪なくせに、なんでこんな時は……こんな時も、こんなに泣きたくなるほど優しいんだろ――
反則だよ、本当に。

「もっと――気持ちよくなれるだろ……マヤは賢い子だから、わかるな?」
「なんか――なんかすっごいイヤミっぽいんですけど、今の」
「そんな風に受け取るな」

クスクス笑いながら、あくまで自然にパジャマを肩から脱がしてゆく。
ワンピースタイプのそれが離れてゆくと――あたしの身を守るものはいよいよ、朝方彼が履かせてくれた白いレースの下着と、靴下だけ……
その姿を想像するだけで恥ずかしすぎて息が止まりそうになったから、あたしはぎゅっと瞼を閉じたまま、彼の身体の重みと自分の身体の感覚だけに全てを集中させることにした。
余計な事を考えてしまったら――指は、一歩も動きそうになかったから。

するすると、自分の両手で腰の周りを撫でてゆく。
速水さんは両膝を立ててあたしの身体との間に隙間をつくると、両肘をあたしの頭の横に置いて、たぶんその様子を上から眺めているんだろう……恥ずかしい、けど……もう、止められない。
ゾクゾクと鳥肌が立つ素肌の上を、両手がまさぐってゆく。
右手を右の胸の上に重ねて、彼がするように丸く潰すようにして掻き回してみる。
心臓がドクドクと興奮に震えているのがわかった。
速水さんに見つめられながら、明るい所でこんなコトをしてしまっている自分が自分ではないような気がして――でも、左手も勝手に動いて、どんどん下の方まで伸びていく。
お腹の上、お臍の下、太腿の内側を辿って――下に、それから上に――ああ、そして。

「ぁ……っはあ……」

そっと指を差し伸べたその箇所が、いつの間にか湿り気を帯びていることが指先から感じられて、驚きと恥ずかしさで思わず変な声が鼻から抜けてしまった。一度出てしまうと猶更歯止めが効かなくて、両腿を捩りながら、更に指を動かしてみる。薄い布の上から割目にそって人差し指を添わせて……くっ、と押してみたら、くちゅっと沈みこんでいった。
柔らかく、熱い、あたしの中に裂けた内臓の感触。
人差し指と中指で擦り付けている内に、自然と腰が小刻みに動く。
右の胸の上を揉んでいる指先が、その先端がどんどん硬くなってきている事を脳に伝えて。
勿論その場面が目に浮かぶわけではないけれど、想像するだけで余計に身体の芯が熱く疼くようで。その硬い先を押し潰したり弾いたりしているうちに、あたしはすっかり速水さんに見られていることも忘れて――昨夜の彼の腕の中で悶えている自分に自分を重ねだし、小さく喘ぎ始めた。

            ***************

白い光の中で、何よりも愛しい生き物が蠢いている。
その総てを俺の腕の中に晒して、自分自身すら知り得ない感覚を探して切ない声を上げている。
その存在を教えたのは紛れもなく俺自身だが、これまでの彼女は決して積極的にそれを認めようとしてこなかった。
それが昨夜、ようやく全ての感覚を何のてらいも無しに受け入れる――という所作を覚えたばかりの彼女は、今。
自らの肉を自ら掻き抱き、吐息の狭間で俺の名前を囁きながら――
溢れ出る欲求を隠すことなく差し出して見せている。
俺の視線を感じながら、ぎりぎりの所で触れずに密着する俺とシーツの狭間で、薄い下着と靴下だけの彼女はぴくぴくと身をくねらせる。静かな室内に、シーツの擦れる音と彼女の息だけが響く。
戯れに、そっと中指を彼女の唇の中に差し込んでみる。
待ち構えていたかのような熱い舌が絡みつき、前歯の先を立てながら舐めている――
こんな事をしろと教えた覚えは勿論ない。
そっと指を抜こうとすると、慌てて舌が追ってくる――同時に、太腿の上を這っていた左手が激しく動くのが視界の隅に入った。
細い腰が跳ね上がり、囁くような声が一瞬鋭さを増す。
俺の指の抜き差しに呼応するように、彼女の左手の指が下着の上からゆっくりと上下を始める。
俺が入れると――舌が指の股の間に絡みつき――白い指は下腹部までするりとなで上げられる――追いかける舌を焦らしながら抜いてみると――もどかしく奥へと沈み込み――そんな事を何度となく繰り返すうちに、控え目だった往復が段々早くなってゆく。
やがてぐちゅぐちゅと遠慮のない水音と共に、マヤの身体は横向きに捩じれて震え始めた。
右手で下から持ち上げるようにして握りしめている乳房の先端――
既に硬くしこりきったその先に、ふっと息を吹きかけてみる、と。

「ひっ……ぁあんっ!!」

叫びながら、横向きの身体を海老のように丸めて悶える。
ああ――その姿の……なんて、可愛らしくて――淫靡な……

「マヤ――そろそろ我慢できないだろ?……直接、触ってみるか?」
「……え、や――そんなの……」
「もうコレは必要ないな。取るぞ」
「やっ、あ、だ、駄目っ……イヤッ――!!」

手首を掴んで止められるのを無視して、引き降ろす。
シーツの中に沈み込むようにして身体を反転させようとするのを、右の脹脛を捕まえて固定した。
下着の上から弄られ尽くした箇所は当然のことながらぐっしょりと愛液に塗れて濡れそぼり、まだ異物を受け入れ慣れない隙間は桃色に腫れ上がって僅かに捲れている。
もっとよく見ようと脚の角度を広げると、慌てた悲鳴を上げて閉じようとしてきた。

「いっ――や、ヤダ、やだやだやだ、お、お願い――し、したから……
言われたとおりした、から……もう見ないで、恥かしいよっ」

右手で必死に俺の頭を押しのけ、視界を遮ろうとするのを左手で止める。
暴れるもう片方の脚は俺の脚で抑え込み、ついでに左腕もシーツと彼女自身の背中の間に捩じりこんだ。

「駄目だね――その程度で満足した訳じゃないんだろ、マヤ。
 こんなにヒクついて……滴ってるのは、何か欲しいからなんじゃないか?」
「あ……ゃあぁっ!?」

屈みこみ、軽く舐め上げてみる。
じゅるっ、と滑ると同時に広がる甘酸っぱい薫りに――俺は後頭部と腰骨の辺りが重く唸るのを感じた。
あぁ――もう、いっそ食べてしまいたい程に。
可愛くて、いやらしくて、愛おしい――その、何もかもが。

「ちゃんと言うまで――ずっと見られ続けるぞ……」
「ひっ、あっ、あ、あ、あ――や、だって、はやみさ――ち、遅刻、しちゃうっ――」
「そうそう、それもある。ほらマヤ……そんなに腰を振って、何が欲しいのか早く言わないと――
いろいろ厄介だと思うんだが」
「んあっ……あ、やだぁっ――そんなコト……ふあっ」

薔薇色の襞は言葉よりも幾分素直で、軽い舌先の刺激だけでもっと頂戴、と媚びてくる。
朝日を浴びてキラキラと、滴は溢れ零れて後ろまで伝い、シーツに染みを広げてゆく。
初めて出会った時から俺を魅了してならない彼女の情熱が――形を変え、花弁となって、俺の舌を、指を、肉を、全て
を要求する――あぁ、もっと頂戴、もっと沢山、何もかも蕩けきってしまうまで、全部――と。
それを。直接、その唇から聞き出したくて堪らない。

……つん、と硬く隆起した小さな芽の上に指を置く。
次の瞬間の刺激を期待して、マヤの身体はビクリと強張る。
予想に応えて、くるくると押しながら捏ねてやると――既に痙攣を始めていた太腿が傍目にもわかる程大きく震え、身体の下に挟み込んでいた腕が外れて――大きく半身をのけ反らせ、叫びだす口元を覆うように首を竦めながらマヤが叫ぶ――俺は更に指の数を増やして柔らかな内部へと抉り込み、其処に遠慮呵責ない刺激を与え続けた。
マヤは大きく喉を震わせて叫び、際まで追い詰められてゆく。

「はっ……あッ……んはっ……も、もぅ、やっ――あぁっ?」

――最後の最後までを与えることなく指を抜いてみる。
愕然としたように下半身が弛緩したのがわかった。
堪えきれないのはむしろ俺の方なのだが、何とか息を殺しながら意識を立て直す。

「まだ駄目、あげない」
「っ――そ、んなの……」
「誤魔化すなよ。一言で済むだろ――本当に遅刻する」

わざとらしく時計に目を遣って見下ろすと、とろんとした眼が一瞬慌てふためき――
やがて、そっと睫を伏せ、観念したように呟いた。

「っ……て」
「え?」
「して」
「何を」
「だ、だからっ……もう!い、い……いれ……」
「い――イクラ?イルカ?イカメシ?――何だ、ちゃんとした日本語で言ってみろ」
「いっ……もうっ~~!!意地悪、最低、馬鹿ぁああっっ!!!!!」
「……げっ」

……

……

俺はその朝、「ヤリすぎるとしっぺ返しを食らう」という一つの教訓を得た。
あと少し、の所で気を抜いたお蔭で彼女を押さえつける力も抜けてしまい。
羞恥と困惑のパワーで見事俺の身体を押し退けたチビちゃんの膝蹴りがお約束通りの箇所を直撃した為、
全ての複雑な過程は眩しい朝日の下に――淡く消え去ったのだった。




「行ってらっしゃい!気を付けてね!」
「……これ以上何に気をつけろって?」
「ほらほら、遅刻しちゃうよ本当に。水城さんに怒られますよ~」

鼻歌でも歌うように俺の背中を押す、その顔は憎たらしい程楽しそうだ。
本当に、せめてあと15分あれば――などと溜息をつく時間もないのが口惜しい。

「――帰ったら覚悟しとけ……」

憮然として見下ろすと、キッチリと襟元までボタンをしめたパジャマを着込んだマヤは、
ほんの少し頬を赤らめて――にっこりと、微笑んだ。

「そんな風に煽らなくても、ヨユーがあればちゃんと言いますよ?」
「え?」

次の瞬間、さっと白い腕が伸びたかと思うと。
俺の顔を引き寄せ、耳元でマヤは囁いた。

「早く帰ってきて、くださいね――速水さん」

……の、ぜんぶ。

ああ――駄目だ、完全に遅刻決定。

つい一瞬前に堪えた溜息ごとキスで押し潰し――俺とマヤはそのまま、玄関口に倒れ込んだのだった。



おしまい。



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まいこ様へ

サイト開設おめでとうございます!!
あまりの素敵絵に、衝動のまましょ~もないSSを送りつけてしまう私をお許しください><;
今後のご活躍を心より応援しております!!

2010年12月20日 愛をこめて★ライラ

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ライラさん本当にどうもありがとうございました!!
すっげーエロいSSなのに読みながら泣いてしまったあたしをこれからもヨロシクね!愛してる。まいこより。

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