『かくれんぼ』 by み様 『マヤ、今週末、空いてるか?君の仕事はないようだが』 『速水さんは、お仕事は?』 『なんとでもなる』 『無理しなくてもいいですよ』 『なんだ、君は俺に逢いたくないのか?』 『そ!そんなわけないじゃないですか!』 『だったら素直に言ってくれてもいいじゃないか』 『?…何を?』 『“速水さんに逢いたい”って』 『!』 『どうした?』 『自意識過剰…』 『そうか、わかった』 『そうやって、すぐ拗ねるんだから』 『なんか言ったか?』 『…速水さんに、逢いたい…です』 『素直でよろしい』 『もう…』 『じゃあ君のマンションまで迎えに行くから。美味いものでも食べに行こう』 『はい』 『最近急に冷え込んできたからな、腹出して寝るなよ』 『そんなこと心配しなくても大丈夫です!』 『人の忠告は素直に受け止めた方がいいぞ』 『速水さんのそれは忠告じゃなくて、ただのいじわるでしょ!』 『ははは、でも、体調管理には気を遣えよ』 『わかってます』 『おやすみ、マヤ』 『おやすみなさい』 「どうしても今日中に片づけなければならない仕事が入った」 あたしの部屋に来るなり、速水さんは開口一番そういった。 コーヒーを入れようとしていた手がとまる。 「だったら…」 ―ここじゃなくて会社に行かないとだめなんじゃないですか?― 胸を襲う淋しさを押し込め、そう口にしようとした、ら。 「だから、邸に来ないか?」 「え?」 急に何を言い出すんだろう? 台所から顔を出し、速水さんの顔を見る。 彼は、苦虫を噛み潰したような顔をしている。 「親父が、邸に人を呼んだんだ。仕事上、どうしても断ることができなかった」 「それで、なんであたしが速水さんのお屋敷に行くんですか?」 「“速水さんに逢いたい”“少しでも長く一緒にいたい”って君が言ったんだろう?」 ! 「そんなこと言ってません!」 ―そもそも速水さんが言わせたんでしょ!― …なんて言ったらまた拗ねるんだろうなぁ、と心の中でつぶやく。 「そうだったか?」 彼の切れ長の瞳がいじわるく光る。 「そりゃあ…心の中では、言ったかも、しれないけど…」 これは、まあ嘘じゃないし…。 「素直でよろしい」 彼は満面の笑みであたしの傍まで来ると、髪に口づけた。 「泊まる準備をしてきなさい」 「え?泊まる?」 速水さんの顔を見上げる。 「どうも長引きそうなんだ」 彼は眉間に皺を寄せる。 「明日の仕事場には俺が送っていくから、心配しなくても大丈夫だ」 彼はぽんぽん、とあたしの頭を叩く。 うーん、問題はそこじゃないと思うんだけど…。 混乱した頭のまま、速水さんに言われる通りに荷物をまとめると、促されるままに車に乗った。 着いちゃった… 改めて速水さんのお屋敷を前にして、あたしの足は地面に根を下ろしたように動かない。 「どうした?」 「う、緊張しちゃって…」 速水さんを見上げるだけで、首がぎしぎし音を立てる。 「大丈夫だよ。まあ、以前ここにいた時みたいに騒がれたら困るがな」 速水さんは笑いながら奥へ入っていく。 「ま、待ってください!」 あたしは慌てて彼の背中を追いかける。 「ね、ね、速水さん、あれは何?」 「ねぇ、これは?」 「ここは何の部屋?」 「あそこに置いてあるあれは?」 「ねぇ速水さん?」 気づくと質問ばかりしていた。 彼はひとつずつ丁寧に答えてくれる。 「そんなに気になるなら、一巡りするか?」 彼は呆れつつも、楽しそうに笑っている。 「え、いいの!?」 「構わないさ。ただ、客人が来るまでに片づけなければならないものがあるから、付き合うことはできないが…」 「大丈夫!だから見てきてもいい?」 彼は長い指であたしの頬をなでる。 「邸から出るなよ、迷子になるから」 「あたし、子どもじゃないから大丈夫です!」 頬を膨らませて抗議する。 「どうだか」 彼は笑いながら、あたしの頭に手を置いた。 彼女の大きな声が部屋まで聞こえてくる。 それと同時に、朝倉の怒鳴り声が響き渡る。…いや、嘆き、というほうが的確かもしれない。 「今度は何をやらかしたんだ」 思わず独りごちる。 マヤが邸にいる、というだけで心が浮き立つのを抑えることができない。 半強制的に連れてきてしまったが、連れてきてよかった。 2週間ぶりだというのに、マヤと一緒にいれないことは残念だが、 こうして元気な声を聞いているだけでも、充分満たされることを実感する。 はやく雑事を片付けてしまおう。 はやくマヤを抱きしめたい。 「あれ、速水さん?」 何の前触れもなく扉が開いたかと思ったら、マヤが入ってきた。 「あれ、ここ、速水さんの部屋なの?」 マヤは部屋の中をきょろきょろと見まわしている。 「探検は済んだのか?」 椅子から立ち上がり、彼女の傍に寄る。 「あ、お仕事の邪魔しちゃいましたね…」 「ちょうど休憩しようと思っていたところだから大丈夫だ」 立ち去ろうとする彼女の背に手をまわし、中に引き入れる。 「探検はどうだったんだ?」 彼女を後ろから抱きしめ、腕の中に閉じ込める。 「すっごく面白かったです!」 「本当にいろんなものがあるんですね!」 「お庭も広いし」 「お部屋もいっぱいあるし」 「途中からね、朝倉さんがずっと横に居てくれて、いろいろ教えてくれたんですよ!」 彼女は止まることなく話し続ける。 小さな口が、よく動く。 「お仕事終わったら速水さんも…」 彼女の小さな頭を後ろに向けさせ、唇を重ねた。 彼女は瞳を見開いて、真っ赤になる。 「甘いな…」 「あ、さっきマドレーヌをいただいたの…」 「そうか」 そのまま彼女の口内に舌を押し込む。 舌先で、彼女の舌を嬲る。 甘いのは、菓子のせいだけではない。 マヤの抵抗がないのをいいことに、彼女の身体に手を添わす。 小さな身体がぴく、と震える。 「マヤ…」 耳たぶを噛むように囁く。 マヤは小さく首を振り、俺の手を防ごうとする。 「マヤ…」 彼女から立ち昇る甘い香りと、弱いながらも抵抗する小さな手に、理性が飛びそうになる。 そのとき、 遠くで、呼び鈴の音が響き、客人が来たことを告げる。 朝倉の、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。 「呼ばれてるよ、速水さん」 「ほっとけ…」 マヤの服の裾を手繰る。 「わわ、何するの!?」 俺の手を掴む彼女の手に、急に力がこもる。 「充電」 澄ました声でそういうと、彼女のうなじに唇をあてる。 「しばらくマヤに触れてなかったんだから、補充させて」 吸いつくような肌に指を這わせている間も、朝倉の俺を呼ぶ声は止むことがない。 「真澄さまーー!」 怒りと焦りの混じった声が近付いてくる。 「ほ、ほら、朝倉さんが…」 「大丈夫。こっちまで来ない」 彼女の胸に当てた掌に、ゆっくりと力をこめる。 「あ…!」 身体がぴく、と震える。 「しー」 耳元で小さく息を吐く。 「聞こえたら困るだろ」 2本の指を、彼女の口の中に入れる。 「ふ…ん」 彼女の声が、身体の中心を熱くする。 「感じてるのか?」 あえて、からかうように囁く。 涙で潤んだ瞳できっ、と睨まれる。 「逆効果」 俺はふっ、と息を吐くと、指を抜き、唇を押しあてた。 そのとき、 突然、扉の向こう側から咳ばらいが聞こえた。 マヤの身体がびくっ、と大きく震えた。 ![]() 「真澄様、お客様がお待ちです」 有無を言わせぬ響きを持って、俺を呼ぶ。 「待たせておけ」 澄ました声で応える。 「なりません」 「…」 「…」 「五を数える間に出てこられない場合…」 「わかった」 朝倉の声を遮るように返事をした。 「すぐ行く。それまで、客人の相手を頼む」 「かしこまりました。お早くお越しくださいませ。くれぐれも、これ以上お待たせなさいませんように。」 朝倉は強く念を押すと、扉の前から離れていった。 「そんな顔をするな」 マヤは泣きそうな顔をしている 「だって…!」 彼女の頬を指でなでる。 「悪かった。」 「すぐに終わらせて戻ってくるから、ここに居なさい」 「どっちみち…恥ずかしくて、出られません」 彼女は服の裾を思いっきり引っ張って直す。 「それはよかった」 「ちっともよくありません!何がいいんですか!?」 「瞳に涙をためて、頬を赤く上気させた顔は、他のやつに見せたくないからな」 「たまらなく、色っぽい」 彼女の耳元で囁く。 「な…!」 マヤは、金魚みたいに口をぱくぱくしている。 「まーすーみーさーまーーーーーーー!!!」 朝倉の、怒気を含んだ大きな声が響き渡る。 「やばい」 俺は小さくつぶやくと、思わず肩を竦める。 「ここに居るんだぞ、わかったな」 念を押すと、マヤを残して客人の待つ部屋へ向かった。 夜までかかるだろうところを、無理やり数時間で終わらせた。 それでも日は傾き、空は夜の帳を下ろし始めていた。 急いで部屋に戻ると、マヤの姿がなくなっていた。 「マヤ?」 ここにいろと言ったのに、どこへ行ったんだ。 ふと、視界の端に動くものが目に入る。 視線を向けると、シーツにくるまったマヤがいた。 「何をしているんだ?」 ベッドの縁に腰を下ろし、彼女の背中に話しかける。 「マヤ?」 返事がない。 「夜はマヤの好きなものを用意させたんだが、食べないのか?」 「いらない」 ぶっきら棒な言葉が返ってきた。 「どうした?腹でも痛いのか?」 「違います」 「マヤ?」 あまりにもいつもと様子が違う姿に、不安が押し寄せる。 「…くて…かおが…せん…」 「ん?」 「恥ずかしくて、みなさんに合わせる顔がありません…」 「それで…そこで、そうしてるのか…?」 「はい」 思わず吹き出していた。 マヤがころん、とこちらを向いた。 「なんで笑うんですか!」 憮然とした顔で俺を睨む。 マヤの横に寝転ぶと、マヤの髪に手を伸ばす。 「俺もその中に入れてくれないかな」 「いやです」 マヤはまたころん、と俺に背中を向けた。 「頼むよ」 俺はシーツの隙間に足を伸ばす。 「だめです」 マヤはますます小さく縮こまる。 「寒くてしかたないんだ」 手を伸ばし、マヤを引き寄せる。 「…」 「ちょっとだけでいいから」 「…ちょっとだけですよ」 マヤはころん、とこちらに向き直ると、シーツをそろそろとほどき、少し持ち上げた。 「どうぞ」 あまりにも憮然としたままの表情に笑ってしまう。 「また…!笑うならいれてあげない!」 再びシーツに包まり始めるのを急いで防ぐ。 「ごめん」 シーツに潜り込み、マヤを抱き寄せる。 「もう笑わない?」 むくれたままの表情で見上げてくる姿も愛しい。 「努力する」 彼女の額に唇を落とす。 「あったかいな」 マヤの足に、自分の足を絡める。 「あれ?今日の速水さんの足、本当に冷たいですね」 不思議そうな眼差しが向けられる。 「この時期はいつもこんなもんだ」 「そうなんですか?でも、いつも一緒に寝るときはあったかいですよ?」 彼女をより近く引き寄せ、耳元で囁く。 「そりゃあ、マヤと愛し合った後だからな」 彼女の体温が一層上がり、耳がほんのりと色づく。 「いじわる…」 愛しさが込みあげ、彼女に口づけようとした、そのとき。 ぐぅ〜〜… 「クッ…ムードも何もないな!」 「もう!笑わないでください!!」 笑いが止まらない俺に、彼女は拳をぶつける。 「ダイニングに行こう。そろそろ準備が整う頃だ」 「うう、お腹の根性なし…」 今度は素直にベッドから起き上がった彼女の腰に腕を回す。 「たくさん用意するように伝えたが、君には少ないかもしれん」 「もう!まるであたしが大喰らいみたいに言って!」 「違うのか?」 「違います!」 「ははは!そうか、違うのか!」 「また笑うんだから!!」 その晩は、いつまでも笑い声が響いていた。 ------------------------------------------- まいこさんへ 10万HITおめでとうございましたー!! おそくなりましたが、お祝にマスマヤあまあまSSをお送りさせていただきましたvv …とは言うものの、ちゃんと甘いですか(・・;?どきどき… まいこさんのツボはここかなー、そこかなー、どこかなー、と思いながら書かせていただきました^^ ちなみにちなみに、シーツシーンは、あるお方からの拍手コメをいただいた際に、 『二人で寝ると、朝、あったかいよ〜』の一言にきゅんとなり、生まれました・笑 いま夏なのに、暑苦しいお話で申し訳ありません^^;笑 たくさんのおめでとうを込めてvvv み(トリからシカ) ------------------------------------------- みさん、お祝いSSプレゼントしてくださって本当にありがとうございました〜!^^ たくさんのありがとうを込めながら、挿絵描かせていただきましたv (2011/08/27) み様のサイトはこちらからどうぞ↓ ![]() ■トップページへ戻る |