おいでませ 恋はなひらく、湯のさとへ。 #001 水城さん、相当お疲れのようですね。




「…水城さん、相当お疲れのようですね」

「そうだな。ここ数か月、休日返上で頑張ってもらっていたからな…彼女こそ休息が必要なようだ。帰ったら入れ替わりに特別休暇を与えるとしよう」

「それがいいと思います。もう、こんなミス普通ありえないですもん。速水さんとあたしの旅先がかぶっちゃうなんて。しかもお宿まで一緒だなんて…!」
「ああまったくだ。よりによって騒がしい豆台風と一緒では、折角の旅行気分も台無しだよ」
「こ、こっちだって…!紅天女の舞台を終えて久々にとれたお休みなのに、事務所の鬼社長と隣り合わせだなんて…これじゃあちっとも羽をのばせません!」
「同感だな。おれだって数ヶ月ぶりの休日なのに、チビちゃん相手の子守役なんてまっぴら御免だ。これではちっとも骨休めが出来ない」

「こ、子守りですって…!?速水さん、あたしもう子供じゃありませんから!立派な大人ですからっ!」
「そう言ってわざわざ否定するのは、かえって子供だと肯定してるようなものだ」
「ふ…フンッ、相変わらずのイヤミ虫」
「そっちこそ減らず口は健在のようで」

「ところできみ…今日の旅行は以前から決まっていたことなのか?」
「いえ、あたしは昨日水城さんに呼び出されて、マヤちゃんに温泉旅行のプレゼントよって…」
「プレゼント…」
「え、ええ。急なお話だったけど何も予定がなかったから、温泉でのんびりするのもいいかなって、それで…」
「…そうか」
「速水さんは?いつも忙しそうにしてるあなたが旅行だなんて、なんだか似つかわしくないですけど」
「まぁな。おれは出張がドタキャンになったんだ。そのスケジュールを水城君が勝手に組み直してね。過労でぶっ倒れる前に日頃の疲れを癒してこいと、半ば無理やり会社を追い出されたってわけだ」
「半ば無理やり…?」
「最近ずっと休みナシで働きづめだったからな。さすがに心配になったんだろう」
「ふうん…」

「じゃあやっぱりこれって、水城さんの手配違い…?」
「…どうやらそのようだな。やはり彼女には休暇が必要らしい」
「ええ、本当に…ゆっくり出来るように、ねぎらって下さいね…」

…水城さん、一体どういうつもりですか…?

…もしかして、わざとか…?

…そうよ、わざとよ。フフフ…


「そんな馬鹿な!もう一度よく確認したまえ」
「は、はい。ただいま…」

「…あの、やはり速水様のお名前で、二名様一泊のご予約となっております。北島様でのご予約は、承っておりませんが…」
「…な、んてことだ…。では仕方ない、もうひとつ部屋を用意してくれないか」
「大変申し訳ございません…生憎ですが今日のご宿泊はすでに満室となっておりまして」
「なんだって?平日なのに空きがないのか?」
「はい、今日はこの村きっての大祭りがありまして…、年に一度の大きな行事として古くから伝わるお祭りですので、今日だけは近隣の宿泊所もすべて満室となっているはずです」

「「お、おまつり…」」

「速水さん、どうしよう…これも水城さんの手配ミスなの?わざわざこんな遠くまで来たのに、あたし今日ここに泊まれないんですか?」
「いや、それは…、だが、しかし…っ」

「あ、それからお客様、『水城様』から伝言をことづかっております」
「なに?水城くんから伝言?」

「…なん…っ――!?」

「え?速水さん、水城さんからなんて?」
「い、いや、なんでもない。なんでもないぞ」
「?」

渡りなさいませ、真澄さま…フフフ


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