好きと嘘と、キスの値段。#九泊目/02


「いやっ!こんなのはやだ…やめて、離して!」
「面倒な女だ、きみは」
「――……っ?」
「最初の夜に、賃料の代わりに抱いてくれって、冗談でも言えばよかったんだ。そうしたら笑って、しかりつけて、終わりだったのに」
「…………!」
「キスしたいって何なんだ…?思わせぶりなこと言って、おれを惑わせて楽しかったか?」
「まどわせて、なんか」
「ああ、おれが勝手に翻弄されただけだ。きみはそんなつもりないって言うんだろ。大した女だよチビちゃん、このおれを手玉にとって」
「ひ、ひどい…速水さん!」
「ひどいのはどっちだ。キスで満足できる男がいるとでも思っているのか?ふざけるな。おれの…おれの気も知らないで、おれがどんなに、どんなにきみを…っ!」

限界など、とうに超えていた。
きみを抱けるなら、もうなんでもいい。

どんなに願っても、この想いは実らない。
過去の過ちは生涯許されない。

だから、もういい。
許されたいとか愛されたいとか
そんなことはもうどうでもいい。

きみを抱くために、きみをののしって傷つけて
どんな口実でもおれは口にする。

欲しかった。
唇だけじゃなく、全部欲しかった。

すべてを愛したかった。

いや…速水さん、怖いっ…こわ、い…!




「はあ、はあっ…」


「………っ!」


「きみが抵抗をしなければ、乱暴にはしない。
だから…大人しくしていてくれ…!」


速水さん…!!

ああ、こんなのはやだ…!
こんな風に、こんな形で…!
こんな辛いことってあるの?こんな悲しいことって…!!

…それなのに…


…ああ、それなのに…


それでもかまわないから…

あなたが欲しいと思う、あたしが、いる…

触れて欲しかった。
あたしのすべてに触れて欲しかった。
あたしこそ、キスだけだなんて無理だった。
毎日キスだけだなんて、おかしくなりそうだった。

愛情なんかなくてもいい…
それでもかまわないから、あなたが欲しいと思うあたしがいる…

そう強く願うあたしがいるわ……――!

「速水さん、本当に…?大人しくしていれば…抵抗しなければ、乱暴にしないって本当…?」
「……ああ」
「…あたし…抵抗しませんから…大人しくしていますから…。だから、お願い…乱暴にはしない…で…」
「…マ、ヤ…?」

「お願いだから…大人しくしてるから…速水さん、お願い…」

――観念したのか

「…わかった。乱暴にはしない。…優しくする。優しく…するよ…」


今からおれは

一生分、おまえを愛する

速水さんのこと…

一生忘れないように憶えていく…


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