好きと嘘と、キスの値段。#六泊目


「…チビちゃん?どこにいったんだ。いや、玄関に靴はあったから…」
「えっ?速水さん!もう来ていたんですか?」

「シャワー入っていたから全然気がつきませんでした。いつも早くても10時すぎなのに…まだ8時すぎたばかりですよね?」
「ん?後ろにいたのか。おやきみ、その格好…くっくっく…大きいなぁ、それ」
「し、失礼な。だってしょうがないじゃないですか、女ものがなくて、これしかなかったんですから!というか、勝手にお借りしてましたけど…よかったですか?」
「ああ、別に。家にある物は好きに使ってくれてかまわないよ」
「はい…あ、あの、あたし、着替えてきますね。待っていてください」

「そのままで」
「え?」
「そのままで、かまわない」

「わわっ!あっ、あの!速水さ」
「わざわざ着替えに行かなくていいから…さぁ、賃料を払って」
「だって、は、恥ずかしいんですけど!こんな格好っ…んっ…」
「いいから…このままがいいんだ」
「ええっ?どういう意…」

「んっ、は、速水さん、待って。タ、タイマー。タイマーかけ忘れてま、んぁっ…」

「はぁ…、は、…水さ、ん…?」

「は、やみ、さん…っ!あの、あの!あっ」

「…キスだけだ」
「え…?」
「キスだけ…唇だけだ。唇だけできみに触れて、あとはなにもしない。きみに触れるのは、この唇だけだ…」

「唇だけ…?ほ、本当、に?」
「ああ…本当に」



やだ…怖い。

でも…触れて欲しい。

怖い…

でも、触れて欲しい…っ


「う、うそ…っ!」

「…はや、み…っ」

「……――っ!」

やめて。止めないで。やめて。ああ…止めないで…!


こんなに好き。
速水さんがこんなにも好き。
好きって言いたい…いいたい、いいたい…!

…でも、いえない…

何も言わなければ、あと一週間以上キスできる。
だから言わない…何も言わない…

「…泣いているのか?」
「………!」

「…すまなかった。今日はもう…帰るよ」
「あ……」


あの子が拒まないのはなぜだ?
それとも、おれが拒めないように仕向けたか?
わからない、もう訳がわからない。

おかしい。
あの子もおれも、おかしい。


←四泊目・五泊目 ■トップへ戻る 七泊目→