好きと嘘と、キスの値段。#九泊目/06


「速水さん…、おねがい、聞いて…」
「…なんだ…」
「…今だけ、あたし今だけ…嘘ついても、いいですか…?」
「………?」
「どうしても、嘘、つきたいんです。今だけ…今だけだから」
「……よく、わからないが、きみの好きなようにしろ」

「ああ…っ、速水さん、あたし、あたし…!」



「速水さんが好き…!!」

「……――っ!?」

「速水さんが好き、好き、好き…あたし、速水さんが好き…!」
「……――、マ…」
「速水さん、好きです…あなたが好きなの、大好きなの…大好きなの…!」
「マ、ヤ…なにを…」
「速水さん…速水さんっ…!」

「…いつからだ…」
「…え?」
「いつから、おれのことを好きになったんだ…?ここに住み始めてからか…?」
「ううん…違うの。もう…ずっと前から」
「ずっと、前から…?」

「そう、あなたの…強引なところも、冷たいところも、意地悪なところも…全部好き」
「マヤ」
「本当は優しくて、温かくて、いつもあたしのこと、支えてくれて…!ああっ…、あなたの全部…あなたの何もかも…!」
「マヤ…っ」
「全部大好き…!大好きなの速水さん、だいすき、だ」


「もう、いい。もう…いいから」
「…速水さん…?」
「そんなに、そんなに言われたら、おれは…」

「おれは、気がふれてしまう…――!!」

「好きだ」
「は、や…」
「マヤ、好きだ。きみが好きだ」

「う、そ…っ」
「嘘じゃない、本当の気持ちだ。きみが好きだマヤ。たまらなく好きだ…!」
「うそ…っ!あたし、今、うそついてるのよ?今言ったこと、全部、うそなんだからっ…!」
「きみが嘘でも、おれは本当のことだ」

「あっ、あたしは、あなたが嫌い…きらいなの、速水さんなんか大嫌い…あぁ!」
「きみが嫌いでもかまわない。おれは、きみが好きだ。好きだよ。大好きだ」
「あぁっ、イヤ、いやよ、嫌い」
「マヤ、好きだ」
「いや、言わないで、そんなこと言わないで…!」
「マヤ…?」

「あたしの…あたしの気持ちなんか、速水さん迷惑でしょう…?嘘だもん…好きって言ったの嘘だもん、嘘だもん…!」

「迷惑なものか…!おれだってきみが好きだ。ずっと昔からきみが好きだ。好きだ、好きだ、好きだ。何度でも言う。きみが好きだ…!好きだ!」

「うそ、ひどい…!あ、あんっ、速水さんのばか、大うそつき、あなたなんか嫌い、あぁんっ、キライ、はぁっ」
「マヤ…かわいい」
「…やっ…!ずるい、そんな、こと、言うの…あっ、ぁあっ」

「マヤ、もう一度、嘘をつけ」
「ああっ…!」
「嘘を、つけ」

「あん!あっ、すき、好き…あなたが、好きっ、あ、はぁ」
「もっと、言え…もっと…っ」
「好き、すき…ああっ、好き、速水…さんっ、すき」
「あぁっ…――もっ、と…!」
「あっ、あぁっ…!――アァア!!っ……み――さ…ぁあっ……す、きっ…―ぁ―っ」
「…マヤ、あ…ああっ…――!」




「今日、紫織さんに会って…、婚約を解消したいと伝えたんだ」
「……え、ええ!?」
「すがりついて、泣かれた。だから、香水の香りはその時ついた残り香だろう、多分」
「………!」

「おれはもう、これ以上自分に嘘をついて生きていくことは出来ない。昨日やっとわかったんだ…きみを抱きしめた時に」
「速水さん…」
「もう、嘘は終わりだ」
「速水さん」
「きみが好きだ」
「あ、あの…」
「好きだ」
「………っ」

「…だからきみも、もう嘘はつくな」
「……、いい…の…?」
「ああ」
「本当に、いいの…?嘘つかなくても…隠さなくてもいいの…?」

「これからも、速水さんを好きでいていいの…?」

「ああ、もちろんだ」


「おれを…信じてくれるか?」
「…信じます。速水さんのこと、全部信じてる…。だってあなたはあたしの…あたしの大切な人だから…」
「…………」
「あたしには速水さんを大切に思う、この気持ちしかないの…。速水さんにあげられるものは、何一つ持ってないの。この気持ちだけなの…他には何もないの…」

「それだけあれば、十分だ…!」




「…すき。速水さんが好き。あたし、速水さんが大好き…」




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