好きと嘘と、キスの値段。#十一泊目


「あん…速水、さ――…んっ、はぁ…」

「…ね、待って…。ぁあっ、ん――まって…」

「…あの、ここで…な、の?」
「そうだ、ここでだ」
「そ…そんなの、恥ずかしいです…」
「…ずっとおれは、ここできみを抱きたいと…淫らに考えていたんだ、おれは。毎晩、ずっと」
「!……っ」
「マヤ…」
「…速水さん…」


「キスだけだなんて…唇だけだなんて、嘘だ。嘘にきまっている。本当は全部欲しかった。きみのすべてを奪いたかった。きみのここを…俺で満たしたかった」
「あっ、ん、速水さ…っ」

「そんな欲望を無理やり押し殺した…たまらなかったんだ、きみの涙が。あ…あ、でも本当は、本当はこうして…っ」

「あっ…ああ!あぁん…――!!」
「…あ、あぁ…っ、こう、して…きみを」
「あっ、ぁんっ、あぁ」
「滅茶苦茶にしたかった…!」
「あ、はぁ、はや、み…、っ――」

「あ、たし、も…あたしも…っ」
「………?」
「止めないで、って思ってたの…、あのとき、止めないで欲しかったの…!」
「マヤ」

「止めないで速水さん…止めちゃイヤ。あなたが好き。速水さんが好き」
「マヤ…!」


♯十二泊目


「ここ、と…ここに、ホクロがあるの」
「そうなのか?自分では見えないからな。知らなかったよ」

「…不思議です」
「何が?」
「速水さんでさえ知らない速水さんを、あたし知っちゃったわ」
「…おれだって、きみが知らないきみ自身を知ったよ」
「えっ、たとえば?」

「例えばだな…そう、きみは寝言がうるさい」
「えー!うそっ?」
「嘘」
「…なっ…!?速水さんたら、またからかって!」


「あん、もう…」
「あとはおれの何を憶えたんだ?言ってごらん」
「あ、と?」
「そう。憶えたことを言ってみろ…」
「…ええっと、えっと…――あ」

「…………」

「…うん?なにを思い出したんだ。顔が真っ赤だぞ」
「えっ…!な、なな、何でもないですっ!」
「ダメだ。ちゃんと言いなさい。何を思い出した?」
「わっ、忘れました!」

「フーン……では思い出すまでこうしてやる」
「あんっ!や、速水、さ…、もう〜イジワル!」

♯十三泊目


「あ、あぁ…速水さん…っ、はやみ、さん…」

「あたしのこと…憶えていてね。逢えないあいだも、あたしのこと…速水さんが好きなあたしのこと、忘れないでね」
「マヤ」

「あなたが大好きなあたしのこと、憶えていてね…!」

「マ、ヤ…っ、あたりまえだ。こんなに、こんなに可愛いきみを忘れるものか…!」


「わかるか」
「あっ…あ、の」
「おまえの中におれがいる…こんなにきみを求めているおれがいる」
「あぁ、あっ…」

「きみもおれを憶えていてくれ。しっかりと忘れないように…この手で、ここの奥で…」
「あ、ぁ…!速水さん、速水さん…!」

「マヤ好きだ、好きだ。あぁっ…――大好きだ…!」
「あ――あっ、…ああ…っ――!」


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